湯の平で見つかった新種きのこ

福江会員がカモシカの溜糞上に生えていたオレンジ色の「きのこのような物」を国立科学博物館の細谷剛氏に調査を依頼したところ新種の微小きのこであることがわかったそうです。以下、細谷氏ご自身による論文解説をご覧ください。今後カモシカ溜糞に遭遇した際にはこのきのこ、「シロシトネチャワンタケ」に出会えることを期待したいものです。

浅間山湯の平で見つかった日本新産の微小きのこByssonectria carlcinogenum

(シロシトネチャワンタケ)について

国立科学博物館 細矢 剛

2021年の春、福江佑子様より、おもしろいきのこの標本をいただきました。調査の結果、この菌を日本新産(日本では初めての報告となる)のByssonectria carlcinogenum(ビソネクトリア・カルキノゲヌム)と同定し(Hosoya 2022)、新和名としてシロシトネチャワンタケと命名したので、この菌の特徴を報告します。

 本菌は、カモシカの溜糞上に多数集合して発生したもので、カロテノイド色素を含んだオレンジ色で円盤状の小さなきのこ(子嚢盤)を形成します。しかし、子嚢盤の下には、白い菌糸がびっしりと広がっており、これは糞から容易に剥がれます。この白色の菌糸は比較的細胞壁が厚く、所々で膨らみながら、直角に曲がる菌糸から構成されています(子実体形成菌糸層)。子嚢盤の上部には胞子を含んだ袋(子嚢)と糸状の構造(側糸)がびっしりと並んでいます。微小形態を観察した結果、本菌を、チャワンタケ目ピロネマキン科のByssonectria carlcinogenumと同定しました。この科の子嚢盤はカロテノイド色素を含んでいるため、オレンジ色にみえるのです。本菌は、白い菌糸がふとん(しとね)のように広がることから、シロシトネチャワンタケと命名しました。

A, カモシカ糞上のきのこと子実体形成菌糸層(伊藤健彦氏提供).B–D, きのこ(子嚢盤)とE,断面. F,子嚢盤の断面. G-H, 子実体形成菌糸層の菌糸. I,子嚢と側糸. J,子嚢基部. K, 子嚢の拡大.L, 側糸の拡大.M, 子嚢盤を構成する細胞の拡大.N,子嚢胞子. Bars: B-F, 1 mm. G-H, J-N, 10 mm. I, 20 mm.

Hosoya T. 2022. Hosoya T. 2022. Enumeration of remarkable Japanese discomycetes (12): Notes on two fungi of Pezizales, Byssonectria carlcinogenum new to Japan and Phylloscypha phyllogena. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. B, 48: 39–45.

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